現在の日本において転職・再就職の人数は年間350万人にもなり、以前の風潮であった終身雇用制はすでに過去の言葉となった。企業も新人の育成だけに焦点を置かず、優秀な人材の引き抜きはかかせないものとなったといえるだろう。
しかし、いざ、自身のキャリアを生かして転職する際には注意が必要である。従業員は会社に対して「競業避止義務」を負っている。競業避止義務とは一定の者が自己又は第三者のために、その地位を利用して、営業者の営業と競争的な性質の取引をしてはならない義務である。会社側としてもせっかく育てた優秀な人材を他社に引き抜かれた挙句、その人物の手腕によりライバルである他社の業績が伸びることは面白くないだろう。
そのために会社側は同業他社への転職を禁止する旨を就業規則に取り込んだり、誓約書を提出させて、引き抜き防止に努めるのである。
しかし、この規則があっても憲法22条で「職業選択の自由」が保障されているため、無効になる可能性が高いと思われる。競業避止義務違反を巡って裁判にまで発展した事例から裁判所の着目点は以下の4つであるといわれている。
①在職中の地位や職務に着目し、在職時に経営の秘密を知る幹部職であるか。技術者ならば開発に携わっていたか否か。
②競業避止を禁止する目的が、営業秘密等企業として正当に保護されるべき利益かどうか。
③地域・対象職種・禁止期間が一般に適当と認められる範囲か。
④退職金の上乗せ等代償措置があるか。
この4項目を主眼に置くが、最近は転職の自由を尊重する傾向にあり、競業避止義務を負う就業規則や誓約書は退職者に対する抑止効果、と捉えている。
また、もう一つの義務として「守秘義務」が存在する。もともと社員は会社に対して雇用契約上の誠実義務を負っており、在職中は情報漏洩等で会社に損害を与えることは禁止される。この義務が退職後も存続するかどうかであるが、これは退職後も企業は主張できる。在籍していた会社の顧客データーやノウハウに関しては一切漏らすことは禁じられ、これによって会社に損害が生じた場合は、転職先の会社に対して損害賠償や刑事罰を主張することもでき、裁判所も認めた判例が多い。ただし、会社はこの「守秘義務」を主張して転職を禁止することはできず、あくまでも、転職先で守秘義務違反した際の損害賠償の可否の問題である。
結論ではあるが、転職は個人に認められた自由であるので、会社サイドは転職を止めることは至難である。しかし、転職した個人も以前在籍した会社の全てを伝授することはできない。あくまでも個人の能力に着目した引き抜き、転職に留めておくべきである。