飲酒のケンカ【いんしゅのけんか】

相手に負わせた怪我の程度は、刑事事件として訴追されるか否かを判断する際の一要素として考慮されますが、それのみで訴追の有無が決定されることはありません。

他方、たとえ相手に重い怪我を負わせても、正当防衛が成立して、罪を問われない場合もあります。また相手に軽い怪我を負わせただけでも、ケンカにいたる経緯、暴行の内容等によっては重い罪に問われる場合もあります。つまり、先に手を出したのはどちらかという暴行行為の先後のほうが、訴追の有無に与える影響は大きいのです。

ケンカの責任について一般的には、どちらが悪いかという判断をしがちですが、法的にはケンカをした双方に非があるとして、双方に罰金等の処分が科されるケースが大半です。一方のみが処罰されるのは、他方の暴行が処罰に値するほど悪質ではないこと等から、後者について不起訴処分が妥当であると判断される場合に限られます。

警察は、ケンカの当事者を最初から捜査対象として扱うことはほぼありません。警察は、ケンカの当事者の負傷の程度がひどい場合は別として、負傷の程度が軽微な場合は、当事者のいずれかから被害届が提出された段階で初めて捜査に着手します。なお、飲食店等でケンカをした場合、店主から被害届が提出されれば、威力業務妨害で処罰されるおそれがあるので、注意が必要です。

ところで、刑事事件の対象としてのケンカは、次の3つに分類できます。

【1】正当防衛等でそもそも犯罪が成立しないもの。

【2】犯罪は成立するが、被害程度が軽微、当人が深く反省している、被害者側にも落度がある等の諸要因を加味して不起訴または罰金刑にとどまるもの(検察官の訴追裁量による不起訴または罰金処分)、

【3】ケンカにいたる原因が加害者側にある、暴行態様が悪質、被害者が厳重処分を求めている等の諸要因に鑑みて懲役刑を求められているものです。
 
また、ケンカの場面で成立しうる犯罪として一般的に知られているのが、暴行罪(2年以下の懲役または30万円以下の罰金)、傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)、傷害致死罪(3年以上の懲役)、殺人罪(死刑または無期もしくは5年以上の懲役)です。

暴行罪は成立範囲が広く、例えば、塩や醤油を相手の顔や頭に振りかける行為、意識がもうろうとするほどの音を相手の耳元で鳴らす行為、相手がヒヤッとするほどの至近距離に物を投げつける行為等は、いずれも暴行罪に問われる可能性があります。つまり相手がいわれのない不快嫌悪の情を与える行為を広く含んでいるのです。

気をつけたいのは、ケンカの当事者だけでなく、現場に居合わせたものに対する犯罪もあることです。例えば、現場助勢罪(1年以下の懲役または10万円以下の罰金)や暴行または障害の幇助罪(正犯の刑を軽減した刑)で処分されるおそれがあります。現場助勢罪は「もっとやれ!」などとケンカそのものを煽った場合、暴行または傷害の幇助罪はどちらか一方に加担する声援を送った場合に、それぞれ成立します。もう一つ飲酒酩酊時に多いのが、駆けつけた警官に対して公務執行妨害罪(3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金)を犯してしまうケースです。

ケンカの仲裁に入った警官に対し、腹立ちまぎれに体当たりや物を投げつけたりすると、暴行罪より重い刑罰が科されます。公務執行妨害罪は不起訴や罰金の余地が少なく、多くの場合に公判請求(正式な裁判)が行われるので注意が必要です。

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